フィギュアはなぜかくも魅力的なのか? 連載記事Art of Figure Makingでは、我々が大好きなフィギュア製作のさまざまや側面について、フィギュアメーカーにインタビューしています。今回はVERTEXのベテラン原型師、HiROOM(ハイルーム)氏に原型師としてのキャリアや、手がけてきたすーぱーそに子のフィギュアについて、お話しを伺いました。
―プロフィールを教えてください。
HiROOM!:HiROOM!と申します。プロになってからは13年になるんですが、その前にアマチュアとして16歳からフィギュアを作っています。全部独学です。趣味はサバイバルゲームで中学ぐらいから現在まで続けています。ゲームも好きで最近はFPSをプレイしています。
次作品の作業を進めているHiROOM!氏
―初歩的な質問で大変申し訳ないのですが、原型師の仕事はどのようなお仕事なのでしょうか
H:金型を作成する前段階までが原型師の仕事です……とお話ししても難しいので具体的に説明致します。
まずは紙粘土を使ってフィギュアのイメージを作ります。自分は紙粘土を使用していますが、原型師によって色々な素材を使っています。紙粘土は自然に乾燥するのですが、作業効率が悪いので オーブントースターを使用して粘土の水分を飛ばします。紙粘土の整形は手とスパチュラと呼ばれる器具を使用して成形していきます。
ここでいう紙粘土とは石膏粘土のニューファンドのこと。
スパチュラと手が、次の傑作フィギュアを作り上げるために必要なすべて!
フィギュアを作るのにオーブンを使うとは驚きでした!
これはまだまだラフ段階
H:そしてそのラフをメーカーの人に見せて「ポーズはこういうふうにしましょう」と打ち合わせたりします。このラフ状態で打ち合わせをやるのは多分私ぐらいですね。
H:その後は、原型が出来たら版権元の絵描きさんに監修してもらい、OKが出たらパーツ分割して、それをシリコン型におこし、その型にキャストを流し込んで高精度の複製を作ります。この複製の1つには色を塗って塗装のための見本品にし、もう1つは中国へ送って金型におこしてPVCを流し込んで成形した量産品に色を塗ったものがお客さんに届く商品になります。
ちょっと見えにくいですが、シリコンの内側に小さい手のパーツが入っています
すーぱーそに子 クリスマスVer.のフィギュアとその塗装前の原型
―16歳からフィギュアを作り始めたきっかけはなんですか?
H:15~6歳頃に非常にゲームが流行っていたのでゲーム業界にいきたかったんです。当時ゲーム業界の就職募集に「モデラー」という職種があったので、気になって調べたのがスタートですね。始めは好きだったロボットを作成して即売会で販売したらすごく売れたんです。
雑誌にも掲載されたのが凄く嬉しくて、ゲーム業界に就職することはすっかり忘れていました(笑)。当時凄く地味な生活をしていたので評価されたのが嬉しかったんでしょうね。
過去を語ってくれるHiROOM!氏
なのでこの道で食べていこうと決めました。プロになってからは原型を最初から最後まで作成する案件は1年間で2体程度ですが、プロデュースしている案件は非常に多いので、関わっている案件の数で考えると何体世に出ているかわからないです(笑)。
―初めて出たイベントのことを覚えてますか?
H:はっきり覚えています。イベントに出るのも、ガレージキット(バラバラのパーツを組み立てて作るフィギュアのキット)の量産をしたのも初めてだったので最初のイベントはてんてこ舞いでしたが、非常に充実感がありました。
すーぱーそに子の髪パーツを修理のため、ガレージキットのように分解したところ
ちょっとした組立が必要
修理完了!
―現在も充実感、やりがいを感じられていると思いますが、プロになってやりがいを一番感じる瞬間はどのような時ですか?
H:やはり評価されたとき、売れた時が嬉しいです。フィギュアは嗜好品で、生活必需品ではないですよね。お客さんが一日一生懸命働いたお金、フィギュアの価格は上がってるので一日がんばっただけで買えないかも知れませんが、それでわざわざフィギュアを購入してくれることが非常に嬉しいです。それはお金が儲かるからやりがいがあるというのではなく、嗜好品で直接なにかの役に立つわけではないフィギュアをそうやって一日働いたお金でわざわざ買ってくれる、そういう評価はホンモノの評価でとてもありがたいと思うので、モチベーションもあがってやる気も出ますね。
――逆に仕事をしていて辛いことはありますか?
H:子供の頃はプラモデルが楽しい、ガレージキットが楽しいと思いながら制作していますが、やはり仕事になると別ですね。正直なところ辛いことも多々あります。同年代のライバルの活躍、お客様の目、売上等辛いことはたくさんありますが……辞められないんですよね(笑)。
これまでも楽だったわけではなく、今現在も
オタク的な嗜好品に理解がない、好きでない人から見ると好きなことを仕事にするのはいいよねと言われることがあるんですが、その幸せにはいろんな苦しみや辛さが伴っての幸せなんだよということをわかってくれる人はこっちの世界の仲間ですね(笑)
―その苦しみを乗り越えて生まれた作品は多々あると思いますが今までのベストワークはなんですか?
H:やはりすーぱーそに子ですかね。可愛いフィギュアとしての要素がきちんと盛り込めた作品になったと思います。製作するフィギュアによって見せていきたい部分は変わりますね。そに子を例にあげる女の子らしさを前面に押し出すことによって、よりキャラクターの魅力を引き出すことに成功したと考えています。
そのクオリティの高さ、魅力は一目瞭然!
―そに子のフィギュアも非常にクオリティーが高いですが、製作段階で一番難しいパーツは?
H:やはり顔ですね。絵描きさんによってシチュエーションが違うし、表情も違う。2次元のものを3次元にするとき、どうすれば可愛くなるか。フィギュアにすると顔の影が落ちたり、角度によって見え方が変わります。一番キレイに見える角度というのはやはりあるんですが、かといって違う角度から見たときに可愛くないという風にならないよう気をつけています。
彼女の魅力に目が釘付け!
―現状のフィギュア業界で問題だと思うことはなんですか?
H:やはりフィギュアの値段が上がってきてしまっていることですね。クオリティーが上がる分以前より生産に時間がかかるようになって人件費も余分にかかってますし、工場がある中国の為替の影響もありますし。
最近は海外でも売れるんですが、それでもやはり日本の市場がすごく大事なので、10年前に比べると高コスト化してるのはちょっと問題がありますね。
フィギュア業界にとっても難しい時
―コストや現在の業界の事情などを考えず、自分にとっての最高のフィギュアを作るとしたらどのくらいの期間がかかり、どのくらいの価格になると思いますか。
H:やはり最高のフィギュアを作ろうと思うと1年位かかりますね。販売価格は20,000円くらいかなぁ。なんでも作っていいと言われたら、ロボットが好きなので12インチくらいのロボットを作りたいですね。現在は可動フィギュアが多いですが、動かないロボットの格好良さを追求して製作してみたいですね。
ラフ原型でもあなたの想像力をかき立てる!
―尊敬している原型師さんは誰ですか?
H:OSIRISさんという原型師を尊敬しています。師匠が同じでライバルなんです(笑)。OSIRISさんは男性やクリーチャーの造形が得意ですが、私は美少女フィギュアが得意なんです。お互い持っていないところを持っているのでリスペクトしていますね。
―今後チャレンジしてみたいことはなんですか?
H:まずコンピューターで原型を作成してみたいですね。やっているところを見せてもらったら、案外手仕事と近いところがあるなあと思いました。でも、いくらでも細かく作れちゃいますし、すぐに修正できちゃうので、浮いた時間をクオリティーを上げるために永遠に使いそうで怖いですね(笑)。
さまざまな道具や素材。スノウマンも含む
ありがとうございます、最後にファンからの質問です。フィギュアの特定の場所に柔らかい素材を使ったりしないのですか?
H:使えますし、以前柔らかい素材を使ったフィギュアが実際にありました。ですが、それより硬い素材を使っていても、いかに柔らかそうに見えるかを表現する方向にフィギュアは向かいました。現在でもドールだと柔らかい素材を使っていたりしますが。
原型師は芸術的表現とイリュージョンを使って、さまざまなフィギュアを実現化します
―そんなフィギュアもあったんですね。次の質問です。趣味としてフィギュアを作ったりしますか?
H:今もロボットのフィギュアを趣味で作っています。
―最後に原型師になりたいファンにアドバイスをいただけますか?
H:今は3Dのソフトが普及しているので3Dから始めるのもいいと思いますよ。手も汚れないですし(笑)。ただ、粘土をこねて小さなマスコットを作っても面白いと思うんです。
これをこうして
さらにこうして
かわいいマスコットの出来上がり!
とりあえず、まずは手近にあるものを使って作ってみることですかね。作って楽しいものを作るのが一番! まずは楽しむこと! クオリティーはその後です(笑)。近年、原型師の人数が業界的に不足しているので、我こそはと思う方は是非チャレンジして欲しいです!
―ありがとうございました!
HiROOM!さん、すばらしいインタビューありがとうございました。
単に好きなフィギュアを作るということから始まって、現在はプロの原型師として活躍しているわけですが、このインタビューを読んだあなた、読者の方がスパチュラと粘土を手にして、自分自身のためだったり友人のために何かを作るきっかけになれば幸いです。
また、すーぱーそに子ファンにとってはHiROOM!氏が「すーぱーそに子 クリスマスVer.」を作るにあたっていかに心と技術を込めたかを知ることが出来たのではないかと思います。
インタビュアー: Adrian L. Morris
写真: 原哲也
翻訳元オリジナル記事:Art of Figure Making: VERTEX, Sculpting, and Super Sonico
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