『ONE PIECE』の“Portrait.Of.Pirates”でおなじみのメガハウスのフィギュア部門を立ち上げた金子浩樹氏へのインタビューPART2! PART1はこちらで!
―海外のファン向けにも意識している部分はありますか?
金子:海外のファンの方向けというのは、僕はあえてあまり意識しなくてもいいかなと思っています。僕はもともとアメコミとかが好きで。ちょうど『スポーンSpawn』が流行り出す前ぐらいの頃が一番好きで。『X-MEN』の……。
―ジム・リーとか。
金子:そう、ジム・リーがすごく好きでした。自分がアメコミに求めたものは、日本の漫画とは全然違ったんですよね。それがかっこいいと思ったんです。だから海外のお客さんも変に寄せてこられても媚びているように感じちゃうんじゃないかな? 媚びを売ったものを出しても、多分お客さんも、そんな媚びとか売られても…となると思うので、(海外は)いい意味で意識はしないようにしています。
―金子さんが一番好きな作品は何ですか?
金子:ベストワンは決めづらいですよ。でも、純粋に作品を好きな思い、商品に携わった部分と、あとは会社としての数字、全部そろっているという意味だと『ONE PIECE』がやっぱりナンバーワンになりますね。本当は仕事とプライベートは分けたいんですけど、いろんな要素が重なっているので。
見ての通り金子氏は『ONE PIECE』愛にあふれているのだ
―これも決めづらいかもしれないんですけど、P.O.Pの中のお気に入りというのもあるんですか?
金子:今日のナンバーワン決めろと言われたら「バウンドマン」です。今できることを一番やったのはこれなので。でも、これがこの先ずっとナンバーワンにならないように頑張ります。『ONE PIECE』がこれから先もずっと面白くなるように、その商品もずっとよくなるように目指さなきゃならない。今日の時点でいえば「バウンドマン」です。そして今後に期待してください。
バウンドマンを上回る次のフィギュアは何か!?
実は『ONE PIECE』だと、僕がずっとつくりたいと言っていたのはドリー&ブロギーだったんですよ。ドリー&ブロギー以外にも、ハイルディンとか、あれがすごくいいなと思っていて、どれもでかいし、多分みんなそんなに欲しくないなと思って(笑)、つくれていないんですけど。つくれたらいいだろうなあという夢は見ますね。
―なぜ巨人族をつくりたいんですか?
金子:ぐっと来るシーンが沢山あって。ドリー&ブロギーはエルバフの誇り高い感じが好きです。ウソップが憧れる気持ちもわかります。ハイルディンは、トーナメントではちょっと「やられキャラ」でしたけど、グングニルを繰り出すシーンとか見たときに一目ぼれで、やっぱり巨人族ってかっこいいなと思ったんです。女性キャラとかは商品をつくる機会が多いのですが、男性キャラの、商売から遠いキャラクターというのはどうやったらつくれるだろうということは、よく考えていますね。まぁ、できることなら『ONE PIECE』の全キャラつくりたいですけどね。
―個人としての悩みは、なかなか現場から離れられないことと聞きました。
金子:そうですね。僕は部長なんですけど、部長が現場をやっているのは多分あまりいいことではないので。ただ、やっぱりみんなにつくれと言うと、みんな真面目なものをつくっちゃうんですよね。そうじゃないところがまだちょっと伝え切れていないので、そこの部分を実際やって見せて何かを感じ取ってほしいな、ということをいまだにやるという感じですかね。
―今やられているのはフィギュアの全体の統括ですね。最終の仕上がりとかですか?
金子:とはいっても、担当が悩んだときだけ聞いています。事業部長としては、プロモーションだったりマーケティングだったりという部分が間違っていないかとか、数量と値段のバランスは常に見ますけど、ものつくりに関しては、割と好きにやらせます。それぞれ自身でやりたいことがあるとは思いますが、(数字で)結果が出ちゃうじゃないですか。なので、相談に来たとき初めて全部まとめて話をします。
P.O.Pの統括もやりつつ、フィギュアに対しての情熱は衰えていない
(フィギュアの)骨格や重心の話もしますし、光の差し方とか瞳のハイライトの位置とか、そういうのも全部、聞かれれば答える。そうじゃないと多分、「君のここ、おかしいよ」と言われても、わからないじゃないですか。あえてそうつくっているフィギュアだとしたら、その部分を修正した時点で、すべてが台無しになったりするから。もしかしたら僕と違ってユーザーの方は、そこがいいと言ってくれるかもしれないし。
また、P.O.Pの企画は僕メインでやっているのですが、ここ最近のP.O.Pは変な話、最低でもヒット、何だったら毎回ホームランを望まれるようなシリーズになっているので、後輩があまり引き継ぎたくないかもしれないですね。今回初めて僕以外の人間が原型から携わるP.O.Pをやっているので、それがうまくいくのだったら、引き継いでいけたらいいなと思っています。
―同じ業界内でリスペクトされている方を教えてください。
金子:名前を出すと迷惑がかかるかもしれないので、仮名まじりで言います。企画をやっている方としては、ホビージャパンさんの土産物屋ハンス氏。『クイーンズブレイド』の原作者ですね。あの方は本当にすごいなあと尊敬します。フィギュアの企画という面では、ALTERのFさんもすごく尊敬しています。FさんというのはALTERさんを束ねている方で、同い年なんですけど、本当に教わることがいっぱいあるので尊敬しますし、今のフィギュアの市場の土台をつくったのはあの方です。もう1人挙げるならば、コトブキヤさんのKさん。Kさんはコトブキヤの男性フィギュアシリーズをずっとやっている方で、あの方がいたおかげで、うちのG.E.M.とか、ALTERさんの「アルタイル」とか、そういう男の子フィギュア市場ができたなという方ですね。
この写真にも多くのクールな男性キャラフィギュアが
グループ内であえて1人名前をあげるならMさんです。「想造ガレリア」という、ジブリさんのキャラクターを通販で売っているシリーズを担当されている方です。バンダイグループにいる人間がジブリキャラクターをやるのはとても大変なことなのですが、その大変な中で熱意を持ってジブリさんの商品を作れているということは、僕にとっては本当に尊敬に値しますね。
原型師さんでは、figmaをやられている浅井真紀さんはすごいですね。昔、角川さんの『エヴァンゲリオン』の単行本に浅井真紀さん原型の可動フィギュア付きの限定版があって、その開発を僕がやっていたので、そこで一緒に仕事をやりました。
それから、個人的には稲垣洋さんという原型師さんがすごく好きです。この世で一番うまい原型師さんの1人だと思っています。でも、ワンフェスとかいくと、写真撮る人の列整備をやってたりするので、まさかみんなも稲垣さんが列整備していると思っていないだろうと思います(笑)。
―フィギュアの技術的な進歩はどういうところにありますか?
金子:特にフィギュア始めた頃と一番違うのは、目の彩色です。当時はマスクを切っていたんですよね。鉄のプレートに睫毛の部分だけ切り欠いてあって、そこをスプレーで塗ると、その部分だけ色がつく、みたいなやり方だったり。今は「タンポ印刷」という方法を使ってます。昔のタンポ印刷は、出来の悪いマスコットの、目が(雑に)描かれたみたいな製法の印象だした。
フィギュアの製造技術は確実に進歩している。
ですが、今はこういう深い目をしていても、全部タンポ印刷でできています。6連タンポ、8連タンポなんて言って、目の白、青、中のハイライトみたいなのも、全部顔を一回セットすると順番に押していってみたいなことをやるようになったので、目の再現度はタンポ技術が発達したことで大分変わりましたね。また、原型制作にはデジタル技術の導入も行っています。
―最近だと、クラウドファンディングってあるじゃないですか。ああいうのを考えたりはされないんですか?
金子:クラウドファンディングを利用するという話は、社内でもやっぱり出ていて、うまく使えば、原型だけつくっちゃったラオ・Gとかも商品になるんじゃないかなと思って(笑)。ちゃんとラオ・GでGとなるように、首だけ動くようにとか。(やりたいんですが、)どうやらみんなはあまり…。
―ラオ・Gはすごいニッチですね。
金子:ラオ・Gがすごい好きで勢いで商品化申請したら通りました。「ぷるぷる…」ってシーンの後の「Gのポーズ」とか。でもトークショーで「10周年記念のフィギュアをつくります」と発表して「ラオ・Gです」と出したら、みんなが「シーン」となってしまって(笑)。笑いを求めたのですが滑ってしまったので、一回横に置いてあります(笑)。いつか再登場させたいです
―Tokyo Otaku Mode のファン(ユーザー)に金子さんへの質問を募りました。ちょっと幾つかそこから質問させていただきたいと思います。まずは「どうやってポーズや道具というのは決めていますか?」
金子:「このシーン」というのがぴたっと決まっている場合はあまり悩まないですね。基本的には、立体映えを重視します。このハンコックだと、「セクシーだけど恥ずかしがっているんじゃなくて、そんなの気にせずにキリッとした感じを出したい」というテーマを決めたら、こういうポーズになりますし、ゾロは結構アクションシーンが多いので、例えば刀を手入れする(静かな)シーンはあまりないなと思ったのでやってみたりとか。そういうテーマを決めてからポーズを決めます。
シャープ&セクシー!
沈黙と瞑想
―では、続いての質問です。つくっていて楽しいキャラは?
金子:ルフィはやっぱり楽しいですね。シンプルで、本当に記号が少ないキャラなんです。でも、だからこそ色々工夫ができるので、ルフィはつくっていて楽しいですね。
―最後の質問です。「そのフィギュアを見て、原型師さんの特徴はわかりますか?」
金子:さすがに他社さんだとわからないときはあります。最近原型師さんも増えてきましたし、あとデジタルの方が増えてきたので。でも、社内で原型やっている人だと、誰がやっているのか知らない状態でも、これは誰それだねというのはわかります。
原型製作を依頼をするときには、原型師さんの特徴や得意ジャンルに合った依頼をすることが多いですね。逆に、絶対向かないであろう人にやらせてみたら、こういう部分がいい方向に働くんじゃないかと思って話を振ってみることもあります。
フィギュアを見ると、全部わかるとまでは言い切れませんが、ここがつくりたかったんだろうなというのは感じますよね。例えばこのセイラさんを見て何つくりたいかって、大体わかるじゃないですか。この原型師さんはいわゆるガンダム世代じゃなくて、ちょっと若い方なので、キャラクターを知らなかったんです。「セイラさん知らないんだ…」と思って、じゃ、むしろ頼んでみようと思ってやってみたら、面白いことになりました。
エレガントで美しい!
―今後やってみたいところとして、事業部運営に力を入れて、市場の活性化をしたいということですが?
今はフィギュアがどんどんでかくなって、値段もどんどん高くなっている。でも、でかくて高い商品ってお店はあまり置きたがらないし、売り場へ行かなくても、通販で手に入るのでなかなか一般の売り場ができにくくなっていることは課題だと思います。
なので例えば『ONE PIECE』の場合、作品のファンはたくさんいるので、これまでフィギュアを買ったことがない人に対して、これなら買いたいというものを(いろいろな方法を試しながら)つくるのが使命かなと思っています。
以前、『ONE PIECE』のフィギュアが増えすぎて、若干ネガティブにとらえられがちな時期があって、自分の中で(新しいファンを)開拓しなきゃいけないと思ったんですよ。そのときに、多分ほかでやっている会社さんが開拓しない場所を攻めようと思って、『ONE PIECE』ファンの人でも、まだフィギュア買ったことがない人に向けて、ナミとかの今までにないインパクトの水着や、ちょっとだけ、わかりやすく胸元がはだけているような男性キャラをつくったら、新規のお客さんが増えてきたんです。それで増えてきたところでドンとバウンドマンを出したら、「待ってました!」と。
ビビ、ビビ、ああビビ!
―もし『ONE PIECE』とかP.O.P以外でフィギュアをつくれるとしたら、どんなものをつくりたいと思いますか?
金子:個人的にやりたいのは『火ノ丸相撲』ですね。超好きなんです。
―相撲がモチーフのフィギュアですか。
金子:他にないんですよ。みんな欲しいのかな?という気もしますけど(笑)。グッズもまだあんまり聞かないですね。昨今アニメとかにならないと、なかなか商品化は厳しいですけど、人気はすごくあるので(いつかやってみたいです)。
―過去のご経験等から、こういう人はフィギュアの企画に向いていると思うのは、どんなタイプの方ですか?
金子:何にでも興味を持つ人ですかね。自分の世界を持っているのも大事なんですけども、凝り固まっていると視野が広がらないので。自分の世界が認められなければそれでいいという人は「アーティスト」です。企画マンというのはそうではないし、特にキャラクターを売るというのは、例えば『ガンダム』という作品があって初めて僕らは仕事ができるので、ガンダムというものをちゃんとまず受け入れて商品にすることです。そういう意味では、いろんな人の意見を聞くことができる人が向いていると思います。
他の人からアドバイスをもらうのは重要なこと
―最後に、海外でフィギュアをつくってみたいと思っている人たちへのアドバイスやメッセージなどをお願いします。
金子:原型師さんだったら、フィギュア専門のSNSサービスもあるので、そういうところでつくったものをアピールするといいと思います。投稿すると、意外とみんな見ています。業界に入りたい人は、とにかく求人を見るというベタなことしかないと思います。今は入るのは簡単だと思うのですが、その中で残っていくのが大変なので。メガハウスは海外進出を考えていて、今日はアジアの話が多かったんですけど、アジア以外でも海外展開をねらっています。海外のキャラクターが好きな方というのは、すごくチャンスが広がっていると思うので、ぜひ。普通に就職活動しても、意外とチャンスは広がっていると思います。
最高傑作は次回作!
金子さん、メガハウスさんありがとうございました。面白いフィギュアは私たちを微笑ませてくれますが、金子さんの手がけたフィギュアは市場でももっとも面白いフィギュアのひとつです。他人を笑顔にすることは、芸術や私たちが大好きなフィギュアの重要な役割であると言うことをこの記事で認識して欲しいと思います。
インタビュアー: 薮崎宏晃
写真: 原哲也
翻訳元オリジナル記事:Art of Figure Making: MegaHouse,“ONE PIECE” and P.O.P Part2
©尾田栄一郎/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
©尾田栄一郎/集英社 ©尾田栄一郎/集英社・スーパー歌舞伎II『ワンピース』パートナーズ
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