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【Art of Figure Making】メガハウス、ONE PIECEとP.O.P

MEGA1-001日本の様々なフィギュアメーカーを訪ねてフィギュアについてのお話を伺う企画「Art of Figure Making」。5回目の今回は、ハイクオリティなONE PIECEのスケールフィギュアシリーズ「P.O.P」でお馴染み、株式会社メガハウスから、同社のフィギュア部門の創設者であり、現在もP.O.Pの企画のほとんどを担当する金子浩樹さんにお話を伺った。

―金子さんがメガハウスさんに入られて何年ぐらいになりますか?

金子:23年目です。当時はメガハウスという会社じゃなくて、「B‐AI(ビーアイ)」という会社でした。当時はバンダイさんのつくっている『セーラームーン』玩具の開発と生産、いわゆるOEMを受けている会社で。僕はバンダイキャンディ事業部さんの、いわゆるキャンディトイの担当をしていました。

―会社に論文を提出したのがきっかけでフィギュア部門を創設したという話を聞きましたが、これはどういった経緯で出されたんですか?

金子:バンダイグループで「21世紀のバンダイグループの在り方と新規事業」みたいなテーマで論文を募集していて、「21世紀のメガハウスとオタクの関係」という内容でとりあえず好き放題書いて出したんですよ。会社に対してここが間違っているみたいなことを書いたんですけど、結果としてバンダイさんの当時の社長から表彰されて。これはもう(フィギュアをつくる)大義名分をもらったなと(笑)。よし、やるぜと思って始めたんですけど、言うのとやるのは大違いで。
最初は「C-モデル」という小さいコレクションフィギュアから始めました。

MEGA1-002金子氏は『ONE PIECE』や『ガンダム』など数々の人気フィギュアを手がけてきた

―そのときはご自身で原型師などを探されたのですか?

金子:そうですね。うちの会社が、そもそもこういうフィギュアを扱っていなかったので。今は別の会社(ALTER)にいる、僕が師匠と思っている人につくり方を教えてもらいました。工場も自分で中国に行って探したりと、結構苦労したんですよ。会社自体にツテがないので、自分で一生懸命探さないと物がつくれなかった。バンダイさんのキャンディトイの仕事をやりながら、出張に行ったときに時間をひねり出して、工場めぐりをやったりとか。

―学生時代はゲーム会社に入りたかったとも、漫画家を目指していたとも聞きました。

金子:高校まで「卒業したら東京に出て漫画家先生のアシスタントになる」と言い張っていたら、親がデザイン系の専門学校に入れてくれました。3年間学校で遊び呆けていましたが、その後絵が好きなのを生かせる仕事がしたくて就職活動をしました。

MEGA1-003適切な機会があれば、適切な仕事を得ることが出来る

ゲーム会社に就職活動をしていたところ、たまたま、バンダイグループのB-AIが学校に求人を出していて見事内定もらえました。そうしたら内定説明会でピングーとセーラームーンを渡されて、君にはキャンディトイをやってもらうと。「お、おう……」という感じで(笑)。

―でも、そこから今のお仕事につながったんですね。

金子:そうですね。昔から文章を書いたり、絵を描いたりしていたので、いろいろな作家先生とかクリエイターの方がすごく好きで、そういう方々と今フィギュアを通して一緒にお仕事しているというのが、ものすごく幸せだなと思います。たとえ漫画家になれていたとしても、口すら利いてもらえないような人たちと仕事をしている(笑)。

―当時憧れていた漫画家やクリエイターはどういう方ですか?

金子:『ケロロ軍曹』がヒットして最近は『けものフレンズ』のキャラデザを手がけられた吉崎観音先生や、あさりよしとお先生、鶴田謙二先生、司淳先生など、コアなファンが多いような方々が好きでした。フィギュアを始めるようになってから、そういう方々の立体の商品化は僕が最初にやると決めています。実際、鶴田先生やあさり先生、吉崎先生のフィギュア商品も多分僕が最初のはずです。

先生方は、原型持っていくと、「自分の作品はこういう感じだから、この部分を表現してほしい」と細かい所まで指摘してくれる。それに応えて原型師とかと一緒に修正して持っていくと、「すごくよくなった」と褒めてくれる。すごくいい方々ばかりで、仕事のやりがいがあります。

―(金子さんの)過去のインタビューでは、イベントで実際お客さんの声を聞くとやりがいを感じると語っています。現在でもそうですか。

MEGA1-004最高のフィギュアを作るには、ファンからの声も大事!

金子:はい。ホビー系のお客さんは、何か物を見たときに、うれしそうな顔で見てくれたり、友達同士で「これいいね」みたいな感じで素直に感情を出してくれます。たまに厳しい話もされるんですけど、それはそれですごくやりがいを感じます。
今は売場ではなく通販で買われる方が多いので、お客さんが直接買われるシーンってあまり見られないんですよね。なので、イベントなどで感じるリアクションがすごく大切だなと思っています。

―海外のファンからの声も聞く機会はあるんですか?

金子:海外のお客さんからの意見というと、Facebookを立ち上げています。Facebook、Twitter、インスタがメインですかね。あとは中国のWeiboもやっています。
また、海外の主立ったイベントは結構出ているので、そういう時にファンの声を聞いたりします。

―そういったイベントは金子さんも現地に行きますか?

金子:そう頻繁ではないですが、行きますよ。今年の1月には北京に行きました。北京は初めてでしたが、ホビー系のお客さんというのは似ているところがあって、皆さんリアクションがすごく素直でめちゃめちゃ反応がよかったですね。

MEGA1-005サインください!

特に中国のお客さんは、日本の方とキャラクターに対する感性が近いんじゃないかなと思います。耳が痛いことも平気で言う(笑)。でもいい意味でズケズケ言ってくれるので、それは助かりますね。北京にはまた行きたいなと思いましたが、今度は冬じゃないときにね(笑)。

―金子さんにお会いして感動しているお客さんもいらっしゃいましたか?

金子:いましたね。「商品にサインをくれ」という方など。「商品に価値がなくなるからやめた方がいい」と言うんですが、「いいからサインをくれ」と言われて、書くとすごく喜んでくれたりして。僕は尾田栄一郎先生じゃないのになんでかなあと(笑)。

―今度はこちらの「モンキー・D・ルフィ ギア“4”「弾む男(バウンドマン)」」について聞かせてください。予約の数がすごいことになっているそうですね。

金子:バウンドマンをつくるのに遠慮してもいいことがないなと思ったので、いろいろ考えるよりは、つくりたいものをつくった方がいいなと思ってやってみました。色も一回塗って、普通にいいのが上がってきたんですけども、何かこれだけと印象に残らないなと思ったので、それを塗り直ししました。だからあまり見たことがないものになったかなと。制作の際には、頼む方も頼まれる方もいかにして「こういうものだね」と理解し合うか、ということを意識しました。自分がやりたいものというのは、ちゃんと頭の中にあるのですが、それを自分でつくったり塗ったりできないので。

MEGA1-006クラシックアートではないが、バウンドマンはその細部まですばらしい出来だ

―『ONE PIECE』の武装色(の彩色)は初めて見ました。かっこいいですね。

金子:ありがとうございます。煙とか、本当はこんなカラフルにはならないんでしょうけども、あえてうそをつくのも大事かなと思っています。歯も少しだけ透明感を出してみたりとか。ひまわりのマークも、最初はベタ塗りだったんですけども、どうにかして金(きん)にしたくて、全部手で塗ってもらったり。

MEGA1-007ルフィのオーラはパワフル!
MEGA1-008向日葵の花も際立っている

最初にジャンプフェスタで原型を飾ったときに、尾田先生に「これは彩色にすごく期待している」と言われてしまったので、先生を驚かさなきゃいけないなと思って、自分の中でのハードルがすごく高いものになりました。一回塗ってもらったものが上がったときに、これは多分、僕が尾田栄一郎だったら驚かないなと思ったので、もうちょっと暴れようかなと。彩色屋さんには、「これ以上やったら製品で再現できないだろう」というところも気にしなくていいと指示を出しました。工場さんにも「ちゃんと再現しますので、ご安心ください」と言ってもらっています。

MEGA1-009これがためらわないということだ!
MEGA1-010実際にルフィがはねているよう!
MEGA1-011彩色も愛だ!

―仕事の大変な部分についても聞かせてください。

金子:管理職としては数字がいかなければ辛いのですが、本当に辛いのは、好きな作品を手掛けさせてもらっているのに売れ行きが悪くて「この作品のフィギュアは売れない」というイメージが定着してしまうことです。これは作品に対する裏切りになる。P.O.Pというのも実はその辺から始まっています。

昔、2回ぐらい『ONE PIECE』の商品をやらせてもらっているんですけど、どちらも全然売れなかったんですよ。それは僕の技量が足りなかったんですけれども、そのせいで『ONE PIECE』のキャンディトイは売れないと一時期思われたかもしれない。だからその後フィギュアである程度実績積んだときに、今もう一回『ONE PIECE』をやらせてほしいと思った。今つくったら絶対間違いないものをつくるぜと思っていたときに、たまたまバンダイさんの方から「フィギュアやらない?」という話が降ってきて。「やります」と言って手を挙げて始めたのがP.O.Pでした。その後13年続いているので、最初に悔しい思いをしたから、今のP.O.Pがあるというのはありますね。

―再編などで会社的に辛い時期もあったと思います。

金子:これまで順風満帆ではなかったですね。理解されるまでが大変でした。そういう中で、会社を納得させるのは、結果であり数字だと思うので頑張ってきました。お客さんに数字の結果を求めてはいけないんですけど、プロだから会社には数字で結果を残すべきなんですよね。好きにつくりたいだけなら、1人でやればいいんだし。

MEGA1-012孤独な戦いを続けるのは困難な道だ

僕は、会社が好きなんですよ。最初は僕1人で始めたんですけど、今はもう20人もの部門のメンバーと仕事をやっていて、海外のチームも合わせて総勢40人以上で仕事を回していけている。長いことやってよかったなと思います。

―フィギュア制作にをするときに意識されているところで、自分が欲しいと思えるかというところと、あとは笑いがあるかというところを大切にしていると聞きましたが、それはP.O.Pでも同じですか?

金子:僕はちょっと変わっているところがあって、「こだわり」という言葉が嫌いなんですよね。例えば「このフィギュアのこだわりは何ですか?」と聞かれても、こだわっているところなんか1つもないんですよ。自分としてはやって当たり前だと思っていることしかやっていないから。その代わり「笑い」を常に求めたいと思っています。やっぱりフィギュア見ているときって、芸術品を見ているわけではないので、「面白い」と思って見るし、そういうとき人間って笑顔になるじゃないですか。このタイミングでこんなキャラをぶっ込んできた(フィギュア化した)んだというところで笑ってもいい。「今回すごいな」でもいいし、「こんなになっちゃったか」というのでもいいし。そういう「笑い」というのを追求したいなと思います。だから「これ、いいですね」と笑顔で言われるとうれしいんですよ。

MEGA1-013スゴイ!

フィギュアって衣食住とは関係ない、正直あってもなくてもいい業界だと思っているんです。景気がいいわけじゃないのに、1万円を超えるような商品を買ってもらえるというのは、よほどの思いでお客さんはお金を出してくれているなと思うんです。そういったお客さんに、(自分から、)「死にそうな思いしてこれをやったんです。」って言うんじゃなくて、お客さんから「おもしれえ!」と思ってもらいたい。笑顔は人を幸せにする。自分の哲学とまではいわないですが、ここを譲らないでやっていかないと、多分自分自身がもたない。

P.O.Pがブームのときには、とても沢山のキャラクターを手掛けていました。そんなある日パッケージ用の写真を撮影していて、どの角度で撮ってもイメージした写真にならなかったときに、ふと気づいた。「俺、何でこんなしかめっ面しているんだろう?」って。こんな感じで商品をやったら、絶対うまくいかないなと思って反省したことがありました。

―今は(笑いという)自分の哲学に戻られたということですね。

金子:戻りましたね。本当に「センゴク」には感謝しています(笑)。売れてくれてよかったんですけど、あのときは本当に辛かったですね。もちろんセンゴクが悪かったわけではなくてその時期にちょっとキャパオーバーになっちゃって、自分が楽しく仕事できていなかったということです。だから、センゴクのガッと顔のついたやつに怒られている気がして。

―センゴクが戒めの象徴なんですね。

金子:さすがセンゴクです。

MEGA1-014笑い方をもう一度学ばなければならない時がある

―キャラクターの特徴というのは、原型師さんが求めるものと、ファンが期待しているもの、という二面性があると思います。そこのバランスというのはどうしていますか?

金子:フィギュア、特に『ONE PIECE』は絵としての完成度が高いから、フィギュアにするときは、絵のとおりに見えるようなものをつくるか、原型師さんの個性を活かしたものにするか、どちらかしかないなと思っています。でも僕は、実はどちらも違うんじゃないかと思っています。

絵というのは三次元のディフォルメじゃないですか。絵から意図を読み取って、一回自分の中で絵を三次元に置き換え直すんですね。それで、ここを強調したいんだなという部分と、プラスお客さんにこのキャラはどう思われているか――性悪とか、邪悪とか、こんな顔しているのにイケメンとか、その要素を増幅してあげようと考えている。だから、ほかの会社さんと一番違うのは、イメージの増幅ですね。

MEGA1-015何を強調することを選んだか、わかりますか?

すごくわかりやすく言うと、エースって登場するたびにどんどんかっこよくなったじゃないですか。一番最初のP.O.Pの「エース」って、最初の設定そのままの顔でつくったんですけど、それで全然顔が違うってすごくたたかれたんです。多分古いときにつくったものだから、商品のイメージとお客さんのイメージにギャップが出ちゃったんですね。他にも「不死鳥マルコ」をやったときに、一発目の原型が、地蔵みたいな顔をしていて(笑)。

マルコの顔は確かに似ているけども、これはお客さんのイメージの増幅になっていないと思ったので、あえてイケメンにするぞと原型師さんに話して、ほかのバランスも全部変えてつくり直したんです。そうしたら「マルコかっこいい」とすごく言われたんです。ああ、そういうことかなと思って。一部でやっぱりマルコが似ていないという声もありましたが、みんなが納得するものってなかなかつくれないので、何のイメージを増幅するかということを考えてつくりますね。

―P.O.Pはアニメの設定画をもとにつくられていると思うんですけど、原作と違ってしまうことはありますか?

意識して、「設定資料に寄せてみよう」というつくり方をすることはありません。やっぱり、アニメの絵ですごくいい顔をしているときが、原作と全然違うときがあるんですよ。原作でも、このルフィはすごく顔がいいなといっても、全体で見ると異質だったりすることがあります。フィギュアはどれか1個を抜き出さなきゃいけないから、「今回はこのルフィの顔に近づけよう」と思ってつくることはあります。だから、アニメとか原作とかというよりは、「この」ルフィということです。

MEGA1-016「この」ルフィ!MEGA1-017金子氏が手がけたもう一つの傑作!

今だから言えるんですが、最初のP.O.Pのナミは、『アニメイト』さんで売っていた下敷きのイラストがすごくよくて、参考にしちゃいました(笑)。このナミは原作ともアニメともちょっと違ったんですけど、でもすごくいい絵だったので。

アニメの設定は、細かい部分を間違えないように、参考資料として渡します。基本的には頭身とかも含めて、立体映えを優先しちゃうことが多いです。設定だとこの頭身だけど、このポーズの場合は、もっとこの辺は手が長い方がいいよねとか、脚を長くしてみたりとか。

MEGA1-018ハンコックはあなたが戻ってくると信じている!

金子氏のインタビューはPART2へ続く! 好きな『ONE PIECE』のキャラや、業界の状況、さらにファンからの質問などにこたえていただいています!


インタビュアー: 薮崎宏晃
写真: 原哲也
翻訳元オリジナル記事:Art of Figure Making: MegaHouse,“ONE PIECE” and P.O.P

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