BEACH QUEENSの秘密その2・BQとフィギュアをめぐる現在、何が起こっているのか?

By on 2013年12月3日
ウェーブの水着フィギュアシリーズBEACH QUEENSがいかにして始まったかをお届けした前回の記事に続いては、実は大きな変化が起こっているという現在の状況と将来についてお届けします。お話をうかがったのは前回に引き続いてウェーブの永見浩士さんです。

シリーズのリリースペース

永見:シリーズをスタートした当初はコレクションサイズ&水着でパーツ数も少ないために、製作期間も短くできるという利点もあったので、なるべく早くリリースするようにしていました。お客さんが欲しいと思った時期からあまり遠くならない時期にお届けしようということです。

BEACH QUEENSが最速の立体化発表、というのは定番ですね。

永見:シリーズが安定して出るようになってきて、数多くのキャラをフィギュア化することを喜んでくれるお客さんの声を感じだして、この2年くらいは出来るだけ作品的にも幅広く、さらに1つの作品からできるだけキャラクターを出していきたいということに重きを置くようになってきました。

そして、他では出てない作品のキャラが出たり、主要メンバーが揃ってる作品が多いというのもBQではおなじみ。

永見:1年くらい前から、毎月5アイテムくらいを目標にしつつ、できれば月10アイテムくらい出していきたいなあと考えてました。点数を増やすためには、商品化のハードルをクリアするための方法論として、オフィシャルサイトでの直販限定というのも将来的にさらに増やしていきたいとも思っています。

原作やアニメ版権元が直接通販するアイテムとして、フィギュアはこのところ増えています。そのオフィシャルサイトでオマケ付きの限定版を出すことも含めることで、フィギュア化の許諾を得やすくする、ということ。もちろん、そのオマケ自体あるとちょっと嬉しいというものでないといけません。コンスタントに月10点フィギュアが出るシリーズというのは実現すればとんでもない話。

永見:点数を増やすということでは、まず1番の問題としては原型師さんが足りないということがあります。そして、2番目の問題としてはウェーブのいまの人員でやってて回すことができるのか、工場もそこまで出来ないんじゃないかということも。そういう問題はありつつもまずはやってみようということで進めています。

その原型師が足りないということに関して、ひとつの答えとしてデジタル造形が出てきています。これについては次回アップするその3でたっぷりとお届けします。

キャラクター選択について

永見:お金だけじゃないメリットもあるんで黒字じゃなきゃやらない、売れる物しかやらないというわけじゃないんですが、利益を出していかないと会社が存続していかないんで、キャラ選択は凄くシビアにやらないといけないんです、本来は。他社がどのくらいどんなキャラを出してくるんだろう、同じアイテムを申請すると先に申請したところに許諾されてこちらには許諾されないなんてこともあるので急がなきゃとか、企画マンは悩みがあるんです。でもこのBQシリーズはそのあたりの悩みはあまりなくて(笑)。1/10スケールも他ではあまりやってないですし、単価が安い分1つ1つの利益は小さいんですが逆に売れなかった時の赤字も小さいというメリットもあるので、比較的チャレンジしやすいんです。

この価格・このスケールならではのメリット、一般ユーザーだと気づきにくい点ですが言われてみると納得。

永見:フィギュアというジャンルの中では同一作品からキャラクターが比較的揃って出てる方だと思います。そこを目指してもいますし。1人しか出さないよりキャラが揃うってことで相乗効果も生まれるんで、メリットもありますね。でもまだまだ出し切れなくて、版権元さんからお話しをいただいても出来てないものもありますし、見切れないくらいアニメもゲームも漫画もあって、まだまだチャレンジできると思ってます。新作を多数発表していますけど、まだ発表していない物は40体くらい動かしていますし、色々あるんで実際には出せないですけど、発表しようと思えばこの1カ月で20体くらい発表できるくらいあります。

インタビューの場に、その時点で未発表の原型や塗装見本が20体くらいあり、さらにその他にも20体くらい動かしているという状態でした。インタビュー後のリリースや、先日の宮沢模型展示会などで一挙に公表されていますが、それでもまだ写真のような未発表の物も。

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 このあたりもおそらく近々発表されるはず。

クオリティとコスト

永見:お客さんの要求も厳しくなって、この5年くらいのフィギュアのクオリティアップって凄いことになっています。20年くらい前ガレージキットフィギュアが出始めてからPVC完成品が増え始めた5~6年前までの十数年の造形の進化のスピードと、この5~6年の造形の進化のスピードを比べると、この5~6年の方が圧倒的に速いスピードで進化してると思います。もっと良い物とを言うお客さんのニーズとマーケットの影響があると思いますけど。

5~6年前のフィギュアの写真や実物、当時はスゴイと思っていた物がいま見ると普通かそれ以下な印象しか受けなかったり。もちろん今見てもとんでもなくスゴイ物もあったりしますが。

永見:一方でコストはものすごく厳しくなってます。もともとフィギュア工場がある中国での物価・コストそのものが上がっていたのですが、今年の前半の円安だけでもダイレクトに20~25%が上がりました。ただ、製品原価の全部が20~25%上がったというのではなくて、原型料だったり版権料だったり、日本のスタッフの給料だったりは円安とは直接影響ないですけど。

今年のフィギュア業界最大の話題のひとつ、円安。フィギュアというジャンル全体に関わる大きな問題なのです。

コストと価格

永見:フィギュアを作ってると良い物を作ろうだけではなく、完全な決定版を作ろうって行きがちで、気が付くと値段がどんどん上がってしまうということがあるんで、BQはそのあたり定期的に歯止めをかけなきゃって思いながらやってます。

決定版と意気込んでボリュームが増えて価格が上がると本末転倒、というわけです。

永見:それでもさすがに今回の円安は無理だっていうことで、価格に影響が出ました。正直、あと1年くらい税別3800円でいけないかと思ってたんですが……。それでも1カ月くらい会社ではすったもんだしてて、いろいろな手段を講じたんですが、結局10%くらいの値上げをせざるを得なくなりました。

12月発売分から基本が税別4200円、税込4410円になっています。

永見:このシリーズスタート時点からこれまでも3800円を維持するために、金型代金節約の目的で、2アイテム同時に進行して、足のパーツは両方とも1つの金型にまとめるとかしてました。ひとつの金型でやると聞くと、成形色が同じになるんじゃと心配する方もいらっしゃるかもしれませんが、スプールという技法でそれぞれの肌の色に合わせて成形色をちゃんと設定できるようになっているんで大丈夫なんです。

水着フィギュアで最重要ポイントのひとつが肌の色。キャラによって、作品によって肌の色は違うのですが、それにも対応可能というお話しです。

永見:ベースの金型についてもは初期にはフィギュアごとに作ってたんですが、途中から共有のベース専用金型を使っています。シリーズを作ってきたそれまでの積み重ねによる経験から、ピンの位置はこことここ、ピン無しとか何パターンか作っておけばどれかしらで対応できるっていうのがハッキリしたので。そういうことでコストも下げてたんですけど、もうこれ以上は……。あとは工場の工員さんのコスト下げるために成形時に出来るパーティングラインを削るのをやめるとか、目のタンポ印刷のこだわりをやめるというところしかなくなって、でもそこは絶対にやめられないところなんです。で、もう無理だとなったんです。

1回目でちょっと触れたベースの秘密というのがこれ。パーティングラインというのは、金型を使って製造すると必ず出来るちょっと盛り上がったラインなのですが、ほとんどのフィギュアではそれを1個1個削って消しています。手作業なので、当然手間賃がかかります。瞳のタンポ印刷というのもこだわればそれだけコストアップしていく部分。でもぱっと見た目のクオリティに最も影響を与える部分でもあります。

フィギュアの価格アップとユーザーの目

永見:(フィギュア全体の価格が上がっていることについて)これはメーカーから見ると状況が分かる話なんですよね。お客さんにしてみたら厳しいなあと思いますけど。それには1つ1つが昔ほど売れてないというのも影響してますね。これはメーカーの努力が足りないと言われればそれまでですが。でもやっぱり時代の流れもあると思うんで。PVC完成品フィギュアが出始めたころは、出るアイテム出るアイテム全部をお客さんが買って写真をサイトに上げてた時代がありました。実際にあの時代はミニマムロットも違ってました。

円安や工賃・原材料費の高騰だけではなく、価格のアップは市場全体の影響もあるわけです。

永見:さらにフィギュアに求められるクオリティも高くなって、1つ1つのアイテムでもいまのほうが工場にかける負担が大きくなってます。変化は急に起こってるのではなく、少しずつ良くなってるので気づきにくいんですが、5~6年前と今の物ってけっこうちがいますよ。今は似てる似てない、もしくはデキが良いっていう基準がシビアになってます。もちろんそこはメーカーもがんばるところなんですけど。

PVCフィギュア初期は、肌が塗り肌か成形色かというのがあったり、成形色中心になってもこのメーカーは肌色が心配とか言われてたりとか、時代によってフィギュアに対する評価基準は変わってきています。以前は原型師が誰かが重要だったのが、現在はどこが作ったかが重視されていたり。そして確実にユーザーの求めるレベルも高くなっているわけです。当然それはよりコストがかかるということでもあるのです。

工場について

話の流れで、状況が大きく変化している中国の工場のこともうかがってみました。他の製造業では他国へ工場を移しているところもあるようですが……。

永見:特にクオリティにこだわろうとしたときには、他国への工場移転は相当ハードルが高いと思います、個人的な考えなんですけど。もっと人件費が安いところに行けばいいのにとか言われたりするんですけど、結局今現在は、外交問題みたいなことが無い限りはですが、長く一緒にやってきたからこそ出来るクオリティだったり仕事の流れだったりがあるので一朝一夕にはいかないですね。

言い換えると外交問題等で中国の工場が使えなくなったら、現在のフィギュア市場は大きく変化せざるを得なくなるということ。価格面だけではなく、クオリティ面でもさらに問題が出てくることになります。現状の中国工場でも工賃の問題や意識の変化などでクオリティが下がっていると言われていますが。意識の変化については別項で。

永見:中国の工場を使い始めた最初の頃だと、修整指示を出しても簡単に出来るとこだけやりましたって全部直してこなかったり、締め切りがルーズだったり、責任感がなかったり、いろいろあったんですが、そういうところの考え方とか常識のすりあわせから入って、現在のレベルにまでなったんです。中国は旧正月とか外交問題とかもあるので、中国を出ることを考えてないわけではないんですけど、じゃあ違った場所の工場を模索するにしても商品が出ない間何カ月か何年か、会社が続けられるか、お客さんが待ってくれるのか。また、その工場でいきなりクオリティの高い物が作れるかというと難しいでしょうから、作るためにはどうすればいいか。正直、ウェーブのフィギュアをやってるチームはまだそこのところは具体的なアクションは起こしていないです。

現在の中国工場も何年もかかってここまで来ています。他で再スタートするにしても時間がかなり必要となります。

永見:それだったら日本でやった方がという意見もありますが、国内でこんなもんでいいでしょっていう昔ながらの商品を作ってるようなところよりも、いま中国で一緒にやってるパートナーのほうが遙かにがんばってくれています。最終的には中国だからとか日本だからとかではなく、仕事をしてる人、統括しているリーダーで、情熱ある人たちと情熱ある仕事が出来る環境が作れればいいんですけどね。

最終的には人材。これはどの業界でも同じことですが。

旧正月について

さらについでのお話し。中国の工場の問題点の一つとしてあげられる、旧正月について。

永見:いま一緒にやってる工場は日本のマニア向けの商品を中心に作ってる工場なので、日本のマーケットの事情を理解して動いてもらっています。特にカナメになる人は土曜休みでも出てきてやってると聞いています。旧正月についても同様で、普通は休み期間は2週間ぐらいなんですが、始まる1週間2週間、ひどいと1カ月くらい前から帰り始めるワーカーさんもいて、戻ってくるのも同じように1週間、2週間1カ月とか遅れてくるっていうんですけど、カナメになる人たちは早く戻ってきてるというイメージはありますね。毎年商品点数が増えてるのにスケジュールがずたずたになってないのはソコのところを調整してくれている部分もあると思います。

最長2カ月くらい止まるとよく言われていますがこういうことだそうです。それでもがんばってくれる人はがんばってくれていると。

永見:とは言ってもやっぱり旧正月は止まりますね(笑)。旧正月明けにまとめてどかんとチェックが戻ってきたり、逆に遅くなったり、新しい人が入ってクオリティが下がったり。ただ、工場も分かってるんでスタッフのモチベーションが下がらないよう、日本以上に会社の中にレクリエーション施設が充実していたり、環境に気を遣ったり。オリンピック以降、中国が経済成長してきて特にワーカーさんがフィギュアなんかは仕事としてつらいとか汚れるとかお金の問題とかで人が集めにくくなったりしてるんで、ワーカーへの気遣いは必要みたいです。工場の上の人たちは、こちらの要求とワーカーさんのやりとりでも苦労してるみたいです。

先に書いた意識の変化というのはこういうことです。旧正月で田舎に帰り、そこで情報交換してより良い工場へ移籍していくので人が入れ替わるということもあります。

BEACH QUEENSに’限らない、フィギュアそのものの現在のいろんな状況をうかがってみました。フィギュア業界が大きな変革期に来ているというのが分かるかと思います。このあたりについては、また別のメーカーさんにもお話をうかがってまとめてみたいところ。
で、前回の記事の予告ではこれから先の話、デジタル造形について、となっていたのですが予定が少し変更となりました。ということでこれから先大きな役割を果たしそうなデジタル造形について、次回お送りします!

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