BEACH QUEENSの秘密その3・デジタル造形は何が出来るのか? その利点とは?

By on 2013年12月12日
BEACH QUEENSのこと、現在のフィギュア業界のことなどいろいろうかがってきた、記事の1回目2回目
最終回となるこの3回目はデジタル造形について。2回目の記事にありましたが、原型師が足りないという問題への1つの解答として、デジタル造形は有効です(すくなくともBEACH QUEENSにとっては)。では実際にどのように使われていて、どういう効果が出ているのか、ウェーブの永見さんに伺いました。

ウェーブにおけるデジタル造形の始まり

永見:去年の年末くらいから、デジタル造形について気になり始めたんです。正直2~3年未来の話とは思っていました。まずは平面だったり均一なもの、メカのほうがデジタルに向いているという偏見もありました。3Dプリンタも注目度が上がってきてましたし、弊社でもメカニカルなものをやるために導入したんです。

メカや均一なものをデジタル造形で、というのはかなり早くから始められていて、現在はかなり普及しています。

永見:ちょうど原型師を募集したら、デジタル造形をやっていた人からも応募があって、おつきあいを始めたところ状況がかなり変わり始めました。アイテム数が来年にかけて飛躍的に増大し、デジタルの人たちにやってもらう数も飛躍的に増えていってるんです。これは、その人たちの製作スピードの早さだったり、会社ごとデジタル造形をやっているところとつきあったりしてるので、こなせる点数が多いということもあります。もちろん5年とか10年とかおつきあいをさせていただいている原型師さんとも今まで通りおつきあいさせていただきながら、新しくデジタル造形をやる原型師さんにもご協 力いただくことで、アイテムが一気に増える可能性が見えてきた、というのが現状です。やってる自分たちが言うのも何ですが、いま進行しているアイテム数は凄いことになっていま す(笑)。

デジタルの利点の一つが、その造形スピード。そのスピードがあり、原型師が増えたことで月10点というペースも目指せるわけです。

永見:デジタル造形と、今まで通りのやりかたで手で直接作っていくものと、どっちが良い悪いというのはなくて、どっちも一長一短あるのは言うまでも無いと思ってます。決してデジタルに全部切り替えるという考えを持っているわけではありません。

デジタルでやることの利点

永見:昨今のフィギュアで求められるクオリティが高くなって、そのため仕事としてもコストとしてもヘビーになってきている中で、パソコンに助けてもらえるパートがあるということなんです。たとえば、塗装でエアブラシが登場したことによって筆だけでは出来なかった新しい塗装表現が出来たり、スピードに変化が出たように、パソコンというツールが増えたことでいろんなことが出来るようになったり、新しく見えたことがあるんです。

何が出来るようになったのか、具体的にうかがってみました。

永見:1つの作品から何人かのキャラクターを作る場合、1人の原型師だけだとどうしても時間がかかってしまうので、キャラを原型師に割り振らないといけないんです。そうすると原型師さんの作風の方向性が少し違っていたり、大きさが揃わないという問題も出てくるんです。原型師さんの方向性という点に関しては、フィギュアは原型師さんの作風がある程度は前面に出ていてもいいジャンルの商品だと思うんで、原型師さんの個性を殺したくはないですし、そこは依頼の段階でこちらでも考えることです。でも、本来背の低いキャラが高くなっていて、比率が合わなくなったりするのはもちろんダメなので修整していくんですが、足を伸ばそう頭をどうこうしようとやってるうちに、最終的に大きさ・バランスが合わなくなって苦慮するということになりがちなんです。それがデジタルだとまず形出しに集中して最後に大きさを微調整できるんです。

DSC01480b

永見:この写真は出力1回目で出来た物です。設定身長でキャラを作っているんですが、絵柄によって頭の大きいキャラクターは1/10で作ってるつもりでもそれより大きくなるという傾向が出がちなんです。で、調整しようということで98%とか97%とか1%単位で調整してるんです。この2人は同じ作品から違う原型師さんが作ってるんですが、そういうのも途中段階でチェックできるのは大きいです。

DSC01478b永見:極端なのはこれです。最初に出力した物がかなり大きかったんです。それを縮めています。

2枚目の写真は撮影アングルのこともあって大きさの差がちょっと強調されてしまっていますが、それでもハッキリした大きさの差がありました。また同一作品での身長差は気になるところ。こういう大きさの調整がデジタル造形の場合簡単にできるのです。

永見:昔だと頭だけが大きかったりすると、型取りを5回くらい繰り返して5%くらい縮ませたり、キャストを流さずにワックスを流してその縮みを利用するとかいうのもやってたんですけど、結局収縮率って一定じゃないので、ゆがんでしまってうまくいかないですよね。大きさを簡単に変える、こういうことが出来るのはデジタルデータならではですね。ここがデジタルの1つめのメリットです。

複製は繰り返して大きさを調整するというのは昔からよく使われている手段なのですが、ゆがみも必ず発生するので何回も繰り返せばそれだけゆがむことに。

永見:2つめは修整への対応力ですね。ウェーブから原型師さんへの修整依頼もやりやすいというのもありますが、それ以上に版権元の監修で、画像へ赤ペンを入れたりフォトショップで修整を入れた物が送られてきたりすることがあるんですが、そういうときに対応しやすいんです。手作業だとその写真見ながら感覚でこのくらいだろうとやってたりするんですが、デジタルだと画面そのものをトレースして修整できるんです。

監修材料として、様々なアングルの写真を送る場合、手作業での原型だと写真を撮って、デジタル造形だとデータから出力したレンダリング画像を送ることになります。写真の場合、広角だったらパースが付いていたりするので、その写真に入れられた修整を目で見て直そうと思ってもなかなか上手くいかないことがあります。いずれにしても原型師の感覚に頼ることになりますし、それが版権元の監修意図とずれている場合もあります。デジタル造形からの画像だと、入っている監修の線をそのままトレースしてデータに修整が入れられるということです。もちろんそこから立体としてまとめ上げていくには原型師のセンスが必要になりますが。

永見:監修についていうと、まだ試行錯誤してます。お話ししたように出力した画像で見てもらうと修整対応がしやすいんですが、それよりも3Dプリンタで出力した実物のほうがいいのか。ただ監修のたびに3Dプリンタで出力しなければいけないということになると、コストとエネルギーが重いことになります。レンダリング画像で平面で見えてる物と、3Dプリンタで実際に出力された物だと見え方が変わってしまいます。さらに色が付くとまた変わってきます。色がついた後に修正してほしいと言われることもありますし……。できること、できないことを相談しながらやっています。

色が付いてる状態というのは、未塗装状態で形についてはOKがでてるから彩色してるということ。本来ならそこでの監修は色だけについての確認のはずなのですが、そこで形についての再修整指示が入る、というのは最近よく聞く話。形についてはOKがでているということで金型製作に入っている場合もあるので、かなり大変なことだったりします。他に、一度監修で修整したあとにやっぱり前のに戻してくれと言われたという話もよく耳にします。平面でも、未塗装状態でも、そこから完成形をイメージできて的確な修整指示を入れることが出来る人もいるのですが、そうはいかない人も多いという現状もあります(また監修についてまとめたコラムも書いてみたいところ)。前の状態に戻すというのは、手作業の原型だと一から作り直すのと同じですが、デジタルだとセーブポイントを戻すだけで簡単に対応可能という利点もあります。

デジタルと手作業

永見:デジタル造形の場合、トライアンドエラーが気軽に繰り返せる、一度削ったところを戻すとか、盛ったのを削るとかが素早く出来るんですが、一方でデジタルは整いすぎていて勢いが出ないということがあるかもしれません。例えば編み目の格子を作ろうと思ったときなどは、手で作るよりもデジタル造形のほうが向いています。勿論、手で作る場合でも時間と智恵と根性があれば、充分作ることが出来ますが。逆に、手作業の時に出る勢いだったり心地良い不均一感だったりも、センスがある人が考えながら丁寧にやればデジタルでも出来ることだと思います。デジタルだから出来る出来ないというのはたぶん違うんじゃないかなぁと。やりやすいというのはあるでしょうけど。デジタルでやってる人たちもツールとして使っているだけで、最終的にはセンスだと思うんです。

例えば、フォトショップの絵が出始めた頃は、どれもこれも同じようなエフェクトだらけでいかにもフォトショップで描きましたというものばかりだった時期があります。ポリゴンで美少女作るのでも初期はどれもこれも同じような感じのものが並んでました(それもあまり可愛くない)。どのジャンルでも、そのツールを使っているだけの状態から、センスのある人がノウハウをためてツールを使いこなすようになってよりよい物が生まれてくるわけです。これはデジタル造形でも同じことが言えるでしょう。

デジタル原型を巡る状況の変化

永見:あと原型師さんも年をとっていって、40歳越えでデジタルに切り替えていく人も出てきています。少しずつ切り替えていく人とか、完全に切り替えていく人とか。これも流れかなと思います。もちろん、全員がデジタルに変わるとか変わるべきというのではないですし、好き嫌いも、得意不得意も、ポリシーもある。でも増えていくだろうなと思っています。

ベテラン原型師の方でデジタルの勉強をしている人はかなりいます。完全に切り替えたという人も。

永見:数カ月前に各フィギュアメーカーの担当の方とお話ししたことがあるのですが、その時はデジタルは必要だけど急いで切りかえなきゃという雰囲気でもありませんでした。特にこういうスケールフィギュアでは、手作りの良さを出していきたいという担当者さんや原型師さんの情熱も感じました。ただ、ウェーブの商品は比較的購入しやすい価格でアイテムを増やしていくというところで差別化して、オンリーワンのポジションを作っていこうと考えているので、デジタルのメリットやデメリットを理解して活用していければと考えています。

すべてが何が何でもデジタルということではなく、適材適所。

永見:あとデジタルは経験値の積み重ねのしやすさを感じます。手で作る場合でももちろんそういう積み重ねはあるんですが、デジタルの場合はデータとしてダイレクトに残るので、その蓄積がわかりやすいんです。ソフトにその記録が残ってますし、廻りのとのノウハウの交換もしやすいですね。ただ、ソフトを勉強する時間と、出力の費用が負担になってます。年々そのあたりの環境も良くなっていくと思いますが。

ノウハウの積み重ねや交換、実際にネットでよく情報交換をしているのは見かけます。ただ、ソフトを動かすためのパソコン環境やソフトウェアを揃えるのはそれなりに費用がかかりますし、ネットなどで情報交換を行えるといっても新しく覚えなければいけないことは大量にあります。3Dプリンタの出力代金も実用的なものを出そうとすれば実はかなりかかります。ただ、急激に状況が変わっているからこそまたおもしろいのです。

生産におけるデジタルの可能性

造形だけではなく、別の面でのデジタルの可能性についてもうかがってみました。

永見:デジタル造形で原型を作ってもらっているところも、デジタルデータをそのまま納品してもらっているのではなくて、原型は普通に出力した物、実物で納品してもらって生産に回しています。なんでかっていうと、いまの3Dプリンタの性能ではデータ通り表面がつるつるしたキレイなものは出せないんです。どうしても微細な凸凹があるので、出力後に表面を仕上げないといけないんですが、そこを原型を手がけてない人が磨いたりすると微妙なラインが失われてしまうかもしれないので、仕上げた実物を納品してもらうようにしてるんです。

DSC01482b写真の左側が出力したそのままの物。原型にするには右のように整えないといけません。

永見:プラモデルでやってるようにデータで金型そのものを作るっていう手法もあるんですが、フィギュアの場合PVCっていう素材が不安定なのでうまくいかないんです。金型から抜き出したものが収縮したりゆがんだりするので。PVCの量産のためには原型からちょっと調整して、延ばしたり削ったりして金型を作らなきゃいけないんです。来年発売予定のBQ蒼崎青子に付属するオマケのラジカセみたいな、ソリッドなものをABSでやる場合だと、3Dデータをそのまま渡して生産をしてもらうこともありますけど。

現状ではデジタルデータそのままではフィギュアには対応できないということ。3Dプリンタの性能だったり、フィギュアの素材が変化したりすればまた状況は変わるかもしれませんが。

永見:他社のデジタルへの取り組みの話ですが、フィギュアへのデジタル印刷は衝撃でしたね。

バンダイベンダー事業部がカプセルフィギュアなどでやっていたデジタルグレードのこと。高精細(肉眼では分からないレベル)な塗装をデジタルでやっていました。数ミリの大きさの中にキレイに瞳のグラデーションが入っていたり。ただ、あまり大きい物には対応できないという話も。最新だと、バンプレストのプライズで1/144の仮面ライダーが同様の技術を使っています。

BEACH QUEENSのアクセサリについて

ちょっとだけデジタル以外の話も。ヤシの木専用拡張ベースセットなどが発売中のBEACH QUEENS用のアクセサリ「BEACH QUEENS ORNAMENT」シリーズについて聞いてみました。

永見:BQのアクセサリはこういったものがあるというのが重要だと思っています。今後も何かしら上手く続けていきたいですね。1年半前にどんなアクセサリが欲しいかアンケートしたんですが、ビーチパラソルが上位に来たんです。でも単体で作るとコストの問題もあって、けっこういい値段になってちょっと難しいってことになって、何かの商品と絡めて開発していこうと考えていたんです。そうしたらちょうどアイマスの3人「美希・あずさ・貴音 ビーチパラソル付DXセット」で必要で作ったので、これから先に出しやすくなりました(笑)。支持してもらえるようなら、キャラの絵が入った痛パラソルとかもやってみたいですね。ダージリンの紅茶セットとか、青子のラジカセとかも、将来的には単品で別売りできないか友思ってますし。

定番的によく入っているビーチボールや浮き輪も同じようにして出来てきた物です。ダージリンの紅茶セットについてはこの記事の中程に写真があります。

最近のラインナップ

永見:最近の物だと、『境界線上のホライゾン』の葵・喜美も、『はたらく魔王さま!』のちーちゃんも、『アイドルマスター』の3人も全部デジタル造形です。『大図書館の魔法使い』の小太刀 凪は半分デジタル造形ですね。原型師によっては、細かいところは直接手でやった方が早いっていうことで、3Dプリンタで出力した後にポリパテに置き換えて手でやってました。その手でやる部分も少しずつ減らしていこうとしてますが。でももちろん全部のフィギュアががデジタル造形になっていくわけではありません。

最近『魔法少女まどか☆マギカ』のVer.2のまどかほむらマミさやか杏子が同じ原型師で一挙に発表できたのも、状況に合わせて部分的にデジタル造形を取り入れたから、といえるかも。

永見:弊社は原型は社内ではなくて外部の原型師さんにお願いしてるんですが、いろんな原型師さんの個性を作品や時代に合わせて準備できるという利点があり、デジタル造形にも対応しやすかったという利点にもなりました。会社の規模的に人件費などのメリットもあるんですけどね(笑)。

そしてこれから

永見:今年は大きな転換点と感じてます。正直、この数カ月でこんなにデジタルに近づいていく時期が来るとは思ってなかったです。この先も新しい発見だったり進歩だったりがまだまだ生まれてくるんだろうなぁと思ってます。

デジタル関係はドッグイヤー。あっという間に様々な状況が変わっていきます。予想も出来ないようなことが起こるかもしれません。

永見:でも、時代が変わっても原型師さんの情熱によるところは大きいですね。情熱のこもってる物はお客さんにも評判良いですし。

これはデジタル、手作業関係なく、真理です。

永見:BEACHQUEENSは200アイテム発表済みで、来年中には300アイテムも突破できそうです。ずっと続けていけるシリーズとしてやっていきたいですね。最近、他のメーカーでも少しずつ1/10でフィギュアが出るようにもなってますので、相乗効果で盛り上がればいいですね。業界みんなで切磋琢磨していきたいです。ただみんなBQで使っているネックジョイント[H]を使ってくれると、いろいろ交換できていいのにと密かに思ってます(笑)。

3回にわたってお送りしてきた「BEACH QUEENSの秘密」。BEACH QUEENSそのもの、フィギュア業界全体、デジタル造形など、様々な側面について、普段は聴けない深いところまでいろいろとお話しいただきました。水着フィギュアだからこその部分もあると思いますが、そのデジタル造形への取り組み方は予想以上におもしろいものでした。
BEACH QUEENSはフィギュア業界の中でも特異な位置を占めるシリーズ、来年に駆けてますます目が離せないことになりそうです。
加えて、フィギュア業界そのものも今年はかなり大きな変動があった年。来年もさらにいろいろなことが起こりそうな情勢です。今後も本サイトではこういった取材を続けていきたいと思います。知りたいことや取材対象のリクエストがあるようでしたら、「お問い合わせ」やTwitterからどうぞ。